先日、オルセー美術館で象徴主義のギュスタヴ・モローの作品を見てから、その神秘的な作風に惹かれて、少し調べてみたら、パリにギュスタヴ・モローが生前に住んでアトリエとして実際に使っていた彼の家が、今は美術館として壮大なコレクションが公開されているというので、行ってみることにしました。
ギュスタヴ・モローの美術館(Musee National Gustave Moreau)はメトロの12番線のTrinite駅から徒歩5分くらいのところにあります。周りは普通の住宅なので、うっかりする見逃してしまいそうです。
入場料は6€、一階の小さな受付でチケットを買います。火曜日は休館日です。
中は本当に普通のパリの家で(もちろんかなり広いです)、2階に上がると居住空間として使われていた居間や寝室、書斎などを見ることができます。モローはもともと裕福な家柄で、この家も彼の両親が買い与えたものとされています。室内の調度品も高価なものがたくさんありました。
こちらは寝室。モローの両親や家族の肖像画が飾られています。
もちろん室内にもモローの描いた作品がぎっしり飾られています。モローの有名な作品の下書き用のスケッチなども何枚もありました。
壁に飾られていた浮世絵風の日本画。日本の影響も受けていたのかと思うと、少し嬉しくなります。
こちらは書斎です。中はかなり暗いので、絵やスケッチはよく見えません。
この居住空間の部分だけでも、訪れる価値は十分にあると思います。が、本当にすごいのは、この上の3階部分とその上の4階部分です。
階段を上がると、大きな部屋が仕切りなく展示室となっている空間に出ます。壁一面には、モローの大作がぎっしりと並べられていて、まさにモロー美術館というにふさわしい光景です。正面のショーケースには彼の彫刻作品も飾られていますが、やはり注目は壁一面の絵画です。
『神秘の花』。玉座に座る聖母マリアを主題とした作品です。画面中央の白百合は純潔を意味し、聖母マリアの象徴とされる花です。この場面は、大天使ガブリエルが処女マリアのもとに現れ、マリアが神の子イエスを身ごもったことを知らせる受胎告知の際、マリアへこの白百合の花を差し出したといわれる逸話をもとに描かれたものです。十字架を掲げ、凛とした姿で描かれている聖母マリアが象徴的な作品です。
部屋の中央にあるショーケースには、彫刻だけでなく、モローが使っていた絵具やコンテ、パレットなどが飾られています。
こちらもモローの代表的な作品『レダと白鳥』。ギリシア神話の逸話の一つで、全能神ゼウスが白鳥の姿に化身して、絶世の美女で人妻のレダを誘惑する話。モローはレダの顔を受胎告知の聖母マリアのように描き、レダの神聖さを強調しているとも解釈されています。
こちらは『雷に打たれるプロメテウス』。こちらもギリシア神話の話で、プロメテウスは太陽の馬車から盗んだ天上の火を人間に与えたために、全能神ゼウスの怒りを買い雷に打たれたとされています。モローは、この作品で、プロメテウスを人類の救済のために身をささげるキリストとして表現したとされています。
『ヘシオドスとミューズたち』これもギリシア神話にもとづく作品。ギリシアの詩人ヘシオドスはもともと羊飼いでしたが、芸術の女神であるミューズたちが彼の前に現れて、彼が進むべき道を啓示しています。ヘシオドスの上にいる白鳥はアポロン神の象徴といわれています。
このようにモローの作品は、ギリシア神話やキリスト教のエピソードを題材にしたものが多いので、物語を知らないとなかなか作品の世界に入り込みにくいのですが、その幻想的な作風に一度見に行って虜になる人も多いとか。特に日本人には人気があるようで、モロー博物館には日本語の説明がありました。