パリの人々の憩いの場、リュクサンブール公園の中に、リュクサンブール美術館という小さな美術館があります。
季節ごとにいろいろな画家の企画展をやっているのですが、今回は、イタリアのルネッサンス時代の有名な画家、ティントレットの企画展をやっているというので、フランス人の友人と一緒に訪れてみました。
あいにく天気は曇り、気温は5度くらいと、かなり外は冷え込んでいました。
美術館の真横には、あのANGELINAカフェもあり、美術館を訪れた後、ここで優雅にお茶を楽しむこともできます。
美術館の入り口はこんな感じ。
今回の企画展の狙いは、有名画家のティントレットの青年時代、まだ有名になる以前の作品に注目して展示されているということでした。
ちなみにティントレットの本名は、ジョヴァンニ・ロブスティで、染物屋の息子として生まれたため、「ティントレット(染物屋の息子)」と呼ばれるようになったそうです。
さて、最初の作品は、『Adoration des mages』(東方三博士の礼拝)。
聖書では有名な場面で、キリスト生誕の際に、東方から三人の賢者が占星術をもとにキリストと聖母マリアのところに集まり、神の子であるキリストに贈り物をした様子です。
Adorationは礼拝、mages(マギ)というのは三博士を意味するそうです。
ちなみにこの絵を描いたとき、ティントレットはたったの18歳だったそうです。こんな絵が18歳で描けるということで、その後の彼の画家としての将来は大きく開けたのでした。
こちらは、『Jesus parmi les docteurs』。うまく訳せませんが、イエスと学者たち、とでもいったところでしょうか。
これは、聖書の中のルカ章にあるイエスの少年時代のエピソードに基づいており、エルサレムに両親と巡礼に向かっていたイエスが途中でいなくなり、母マリアが必至になってイエスを探しに戻ったところ、ある寺院の中で年配の学者たちと少年のイエスが討論をしていた。そして、学者たちは少年イエスの博識とその知恵に驚かされたというエピソード。
この場面は、ティントレットの想像に基づいて描かれており、実際には学者たちが本を広げてイエスの知識を確かめていたという記述はないそうです。
想像力豊かな若きティントレットによって描かれた一枚です。
次はこの絵。
『La Conversion de saint Paul』(聖パウロの改宗)。
こちらも聖書の中のエピソード。キリストの弟子のひとりとして有名な聖パウロは、最初、キリストを迫害するパリサイ派だった。パウロはキリスト教徒を弾圧するために、一隊の指揮官となっていたが、突然、天からの光があって、パウロは地面に倒れた。
「パウロよ、なぜわたしを迫害するのか」
「あなたはどなたですか」
「お前が迫害しているナザレのイエスである」
この後、パウロはしばらく盲目となってしまい、ダマスクスに着いたパウロは、洗礼を受けたという話。
絵の中の中央にいる人物が、落馬したパウロ。そして雲の上にはエンジェルが描かれている。
ルネッサンス時代(またはその前も)の西洋美術は、このようなキリスト教の知識、ギリシア神話知識などなど、ヨーロッパでは一般の人々が普通に知っているような話がたくさん絵の中に登場してくるので、キリスト教徒、もしくはよほど専門知識がないと、絵を見ただけでその話までたどり着くことができません。とくに、フランス語しか説明がないと、かなり厳しいのですが、今回は、一緒に行った友人がある程度、説明をしてくれたので助かりました。
これは、聖書とは関係ない絵です。
原題は『Labyrinthe de l'amour』(愛のラビリンス)というロマンチックなタイトルがついていますが、実際にベニスにあるジューデッカ島にある風景だそうです。
そうそう、ティントレットはベニス出身の画家なので、ベニスにちなんだ人物の肖像画や場所を描いた絵も多く存在します。
さて、また聖書のエピソードの絵に戻ります。
こちらは、娼婦とイエスを描いた連作です。これも聖書にある話では、ある娼婦が捉えられ、皆が彼女に石を投げようとしていたところに現れたイエスが、彼女は過ちを犯したが、皆の中で一度も過ちを犯したことのないものがいるだろうか?もしいたらその人だけが、彼女に石を投げよ、と言ったというもの。
さて、次も連作、しかも今度は三連作です。
原題『Judith et Holopherne』ユディトとホロフェルネス。
ホロフェルネスはアッシリアの将軍で、、ネブカドネザル王から、バビロン王国統一に歯向かった地方を制圧するために派遣された。ホロフェルネスはベトリアという町を包囲し、ほぼ全員が降伏したところに、ユディトという美しいヘブライ人の寡婦がホロフェルネスの陣にやって来て、ホロフェルネスを誘惑した。そして、ホロフェルネスが酔いつぶれたところで、ユディトはホロフェルネスの首をはねた。ユディトはホロフェルネスの首をベトリアに持ち帰り、ヘブライ人は敵を打ち破ったという話。
二作目は、Suzanne et les viellards(スザンナと老人)。
これもルネッサンス時代に、数多くの画家が同じテーマで描いています。
裕福なユダヤ人の妻スザンナは、庭で水浴をする習慣がありました。ある日、それを知った二人の長老が、召使いがスザンナ一人を残して去ったのを見はからい、水浴しようとしていたスザンナにせまり、自分たちと関係を結ばなければ、おまえが若い男と密通しているのを目撃したと公共の場で申し立てるぞ、と脅迫しました。当時、姦通罪は死刑に相当する重罪であったわけですが、スザンナはきっぱりと彼らをはねつけ、声を上げて助けを求めました。このことから、スザンナは純潔を守り抜いた女性として崇拝されたのです。
そして最後は、『Esther devant Assuerus』。
エステルはユダヤ人の美しい娘だったが、その出自を隠して、王宮に出入りし、王妃となる。ところがある日、父親がユダヤ人嫌う大臣ハマンへの敬礼拒否したことから、ハマンがユダヤ人全員の処刑を決定したことを受けて、エステルは自身がユダヤ人であることを王に打ち明け、ユダヤ人の処刑をやめさせることに成功した。
このほかにも、興味深い絵がいくつもありましたが、この辺で。
それにしても、ルネサンス絵画は、聖書の勉強になりますね。